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大阪高等裁判所 平成6年(ネ)3416号 判決 1996年5月30日

控訴人

西田廣美

富士火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役

白井淳二

右両名訴訟代理人弁護士

模泰吉

三原敦子

宮川博史

被控訴人

みどり銀行健康保険組合

(旧名称兵庫銀行健康保険組合)

右代表者理事

秋根稔

右訴訟代理人弁護士

大塚明

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決中、控訴人ら敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文に同じ

第二  事案の概要

原判決の「第二 事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決三枚目裏八行目の「過失相殺」を「過失割合」と、同四枚目表三行目から四行目にかけての「甲第三ないし第五号証」を「甲二ないし四」と、同六行目の「上肢」を「上下肢」とそれぞれ改め、同四枚目裏二行目の「第一一号証、」の次に「三六ないし四二、」を加え、同六行目の「一四日」を「四日」と、同五枚目表七行目の「治療を」から一〇行目の「ない限り、」までを「患者の症状が安定し、これに対し、治療を施してもその医療効果が期待し得ない状態になった場合をいうのであるから、米田が前記各傷害について症状固定と診断された後については、特段の事情のない限り、治療を施す必要性はなく、仮に、治療を受けたとしても、」と、同裏二行目の「ところ、」を「である。」と、同八行目冒頭から九行目の「ではない」までを「は、症状の悪化を防止し、生命の維持を目的として治療が行われているものではなく、症状の改善を目的とする治療である」と、同六枚目裏一一行目の「既払金を除く」を「、既払金のほかに六二〇〇万円を受領することとし、その余の」と、同七枚目表七行目の「本件示談契約は」から同八行目の「この当時、」までを「本件示談契約の当時」と、同七枚目裏一行目冒頭から五行目末尾までを「を受けていた。そして、本件示談契約成立後においても健康保険給付が継続されることを当然の前提ないしは了解事項として本件示談契約が締結されたことは、米田の代理人として本件示談契約に関与した弁護士の認識や、示談交渉における控訴人らの損害額の積算過程をみても明らかである。」とそれぞれ改め、同五行目の次に改行して次項を加える。

「仮に、本件示談契約において、保険給付の代位求償の対象となる損害賠償請求権が放棄されていたとしても、これをもって被控訴人に対抗することはできない。

すなわち、本件においては、被害者である米田が健康保険給付を受けたのは、むしろ加害者とその契約損害保険会社である控訴人らの懇請によるものだったのであり、保険給付とその結果としての代位求償の存在を控訴人らは承知していたのみならず、進んで引き受けていたのである。かかる場合、右損害賠償請求権は、控訴人ら承認のうえで健康保険からの代位の対象とされており、被害者の一存で処分することができないものというべきであるから、仮に、被害者である米田側が明示的に健康保険給付による代位求償分を含めて権利放棄をしたとしても、これをもって健康保険給付側である被控訴人には対抗できないと解すべきである。」

第三  証拠

原、当審での本件記録中の各証拠目録の記載を引用する。

第四  争点に対する判断

一  被控訴人の本件請求のうち、「第二 事案の概要」の一4②記載の傷害の症状固定日は平成三年五月三〇日であるから、右傷害に対する治療費のうち、同月分に関する求償請求は、症状固定前の治療費であるし、本件示談契約時(平成四年一〇月二八日)には既に発生している請求権であるから、米田において処分できないことは明らかである。よって、右請求部分は正当である。

しかし、右以外の請求部分、すなわち、右傷害に関する同年六月分以降の請求及び同年四月一九日に症状固定した同4の①及び③記載の傷害に関する請求は、症状固定後の治療費であり、かつ右示談契約後に発生した部分が含まれているから、その請求の当否が問題となる。

二  争点1について

当裁判所も、本件の場合は、症状固定後の治療費などについても、本件事故と相当因果関係があるものと判断するが、その理由は、原判決の「第三 争点に対する判断」の二記載のとおりであるから、これを引用する。

ただし、原判決九枚目表八行目の「(事案の概要)」を削除し、同九行目の「各三」を「各1ないし4、四九ないし五八」と、同一〇枚目表一一行目の「とおりである」から同一二行目の「推測できる。)が、」までを「とおりであり、平成三年五月から八月の治療についてもほぼ右と同じであるが、」と、同一〇枚目裏一一行目の「思わぬ疾病」を「感冒から肺炎への発展、あるいは湿疹を放置することによって全身の感染に発展したり、食欲低下による全身の体力低下を生じることによって、思わぬ疾病等」とそれぞれ改める。

三  争点2について

当裁判所も、本件示談契約は、被控訴人の控訴人らに対する求償請求権以外の損害賠償請求権について示談されたものと判断するが、その理由は、原判決の「第三 争点に対する判断」の三記載のとおりであるから、これを引用する。

ただし、原判決一二枚目表五行目の「対象となる部分を含めた損害」を「対象となっている損害」と、同九行目の「余地は存しないが、」を「余地のないことは明らかである。」とそれぞれ改め、同行目の「示談契約」から同末行までを削除し、同一二枚目裏一行目から一三枚目裏七行目までを次のとおり改める。

「1 前記「第二 事案の概要」の一記載の事実及び証拠(甲四五の1ないし3、乙一ないし六、四七、証人植田によると、次の事実を認めることができる。

(一)  米田の症状固定後、米田側は植田弁護士により、控訴人西田側は、控訴人会社の代理人でもある模弁護士及び三原弁護士により本件示談交渉が行われた。米田側は、症状固定後も症状悪化を防ぐためにセンターに入院してリハビリテーションを受けているが、今後もリハビリテーション及び治療を継続することが不可欠であるところ、これに要する治療費として平成三年六月分以降月額平均八万二〇〇〇円を支出しているので、一〇年間一か月八万二〇〇〇円の割合による九八四万円を症状固定後の治療費相当の損害として請求する旨の損害金計算書(過失相殺、損益相殺前の損害額合計は一億八八五三万二九八〇円である。乙一)を送付した。右の月額平均八万二〇〇〇円は、センターの入院治療費の二割、通院治療費の三割に相当する米田の自己負担分に過ぎなかった。

(二)  これに対し、控訴人西田側代理人は、控訴人会社が米田に支払済みの治療費、看護料、入院雑費のほか、慰謝料、逸失利益及び将来の介護料の合計額に症状固定後の将来の治療費(月額八万円の割合による一〇年間分につき新ホフマン法による中間利息を控除した七六二万七二〇〇円)を加えた合計額につき四割の過失相殺をしたものから、既払額を控除した五五五一万六三八二円を賠償するとの案を回答した(乙五)が、右計算には治療費のうち被控訴人の求償に応じて支払った金員を米田に対する既払金として計上している不備があった(乙四、四七)として、基本的な項目の数字は先に提示した案のままとし、多少の治療費の支払い分に関する差し引きを加えた上、被控訴人に支払った治療費については「別途社保求償五五二万八三三二円支払済」と記載するのみで、これを損益相殺に計上しないこととした五九〇七万五九三七円と訂正した案(乙二)を提示した。

(三)  控訴人西田側の訂正後の右提示額を前提に双方の弁護士が交渉を続け、植田弁護士側が要求額を譲歩し、控訴人西田は米田に対し、既払額に加えて、右提示額に約三〇〇万円を加えた六二〇〇万円をさらに支払うことで本件示談契約が成立した。

(四)  右示談交渉に際し、植田弁護士は、米田が現にセンターに入院してリハビリテーションを受けており、将来に亙ってもこの状態が継続し、その入院に際しては健康保険の継続的給付を受けることを当然の前提と考えていたが、自己負担分以外の治療費の求償は、被控訴人が従前から控訴人会社に直接行って支払いを得ていたから、将来分についても被控訴人が求償するものと考えていたので、その点に触れないで交渉を進めた。

2  控訴人らは、本件示談契約は社会保険による療養給付分を含めた一切の損害賠償請求権についての示談契約であると主張し、乙四七にはその旨の記載がある。

しかし、植田弁護士は、将来の介護料については自己負担分だけを対象としていたものであることは前示のとおりであるし、控訴人西田側代理人の前項認定の計算方法によると、同代理人も、植田弁護士の請求する治療費月額平均八万二〇〇〇円は、治療費のうちの被控訴人の負担する七割ないし八割の治療費を除外した米田の自己負担にかかる分だけであることを熟知して損害賠償額を算出したことが窺える。そうすると、双方の代理人とも、本件示談契約においては、被控訴人から症状固定後も保険給付金の求償のあることを前提に、これを除外して交渉を進めて本件示談契約締結に至ったものと認めることができ、右乙四七の記載部分は、前項認定の控訴人西田側代理人の計算方法に照らして採用できない。

他に、控訴人らの右主張を認めるに足りる証拠はない。」

第五  結論

そうすると、被控訴人の本件請求を右限度で認容した原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。

よって、本件控訴を棄却することとし、民訴法八九条、九三条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田畑豊 裁判官 熊谷絢子 裁判官 小野洋一)

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